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家族が安心できる遺言を作るために

私たちは、毎年多数の遺言作成をお手伝いしております。
多くの方が遺言が必要だと感じていらっしゃいます。しかし、なかなか決心がつかないようです。
中には、数年がかりで決心してご相談に来られる方もいらっしゃいます。

 

さて、「公正証書遺言」という言葉をお聞きになったことがありますか?
公正証書遺言とは、最も確実な遺言のことです。公証役場で公証人に作成してもらいます。

では、どうやって公正証書遺言を作成するのでしょうか。

公正証書遺言作成の流れ

まず、公証人との打ち合わせをします。
遺言の内容、誰が証人となるのかなどについて、具体的に取り決めます。
そして、公的書類を収集し、公証人に提出します。
遺言者本人確認の1つとして、印鑑登録証明書1通の提出が必要です。また、戸籍謄本不動産登記簿謄本等が必要となる場合もあります。予め取り決めた遺言を作成する日に、遺言者は証人2名と公証役場へ行かなければなりません。
病気等、なんらかの事情で遺言者が公証役場まで行けないような時は、遺言者の自宅または病院等へ公証人に出張してもらうことも可能です。

 

遺言の作成は、まず公証人が遺言者に、氏名、住所、生年月日、その他いくつかの質問をします。
これは、本人確認および判断能力の確認のためです。
そして、遺言者が公証人に、遺言の内容を具体的に伝えます。
この「質問に答える」「遺言の内容を具体的に伝える」で、公証人が遺言者に判断能力がないと思った時は、遺言は作成できません。

 

私たちがお手伝いしたケースでも、認知症になりかけていらっしゃる時に、遺言が作れなかったことがあります。
どのケースも理由は、高齢であった、慣れない場で緊張してきちんと答えることができなかった、というものでした。

証人2名は、遺言の内容をしっかり聞き、公正証書遺言が間違いなく希望通りの内容となっていることを確認します。
そして、遺言者・証人2名の確認ができたら、公正証書遺言の原本に署名と捺印をします。
作成された公正証書遺言の原本は、公証人によって保管されますので、紛失や偽造の心配はありません。

そして遺言者には、原本と同一の効力を有する正本が渡されます。
万が一正本を紛失しても、再交付を受けることができます。

遺言が完成すると、みなさま一様に、「緊張したけれどこれで安心した」と、晴れ晴れとした表情をされます。

 

公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて、家庭裁判所の検認手続きも必要なく確実性が高いため、お勧めの遺言作成方法です。

自筆の遺言書のため相続争いとなり、長期化した例

Aさんの家族は、妻Bさんと長女Cさん、次女Dさんです。
娘は2人とも結婚してそれぞれの家庭を築いています。
長女Cさんは夫と娘、次女Dさんは夫と息子という家族構成です。
ある日Aさんが亡くなり、相続が発生しました。

 

相続人は、妻Bさんと長女Cさん、次女Dさんです。
財産は、預貯金と不動産。

また、「遺言」と書かれた自筆証書遺言と思われる封筒を、相続人全員が確認しています。
長女Cさんは遺言についての本を読み、妻Bさんと次女Dさんに言いました。
「自筆遺言は家庭裁判所で検認という手続きをしないと開封してはいけないらしいよ。私が検認の段取りをするからこの遺言は預かるね。」

妻Bさんも次女Dさんも、責任感の強いCさんの言葉に安心して納得しました。
しかし、長女Cさんは、友人からの一言で不安になります。

「遺言の内容はまだ見ていないの?もしCさんに損になることが書かれていたらどうするの?」

Cさんはこの不安に耐えられず、検認前に遺言を開封してしまいました。

そして、その内容に愕然としました。
遺言の内容は、Aさんの血を引く男子である次女Dさんの息子へ、実家の土地・建物を含む不動産を継承させるというものでした。

長女Cさんはもう検認どころではありません。
人が変わったように、相続についての話し合いを拒むようになりました。
その後、数ヶ月かけて、妻Bさんと次女Dさん、長女Cさんの家族からの説得もあり、ようやく相続についての話し合いができるようになりました。

 

そして、相続人全員の同意で遺言とは違う遺産の分配方法で決着することとなりました。
妻Bさんや次女Dさんが、長女Cさんに対する思いやりをもって話をされたので、調停や裁判にならなかったことが救いでした。

 

遺言を作る際には、余計な争いにならないような配慮、もしくは万が一争いになった時のための対策を考えて作成することをお勧めします。
こんな時は、付言事項(遺言書の注意書きのようなもの)などで、遺言者の思いを伝える言葉を添えれば、争いを防げるかもしれません。